かつて、愛知県では、「交通死亡事故ワーストワン返上」が交通安全活動の合い言葉でした。しかし、その言葉を耳にする度に、私は不快感を覚えていました。それは、亡くなられた被害者の数、失われた命の数を数え、比較することに対する不快感でした。
愛知県は、交通事故の多発要因を抱えています。車両の保有台数は1位、道路距離は2位、免許人口は3位であることに加えて、車両依存度が関東、関西の倍なのです。必然的に交通量は増加し、交錯することによって交通事故が発生し、道路面積が広いことと相まって重症化率も高くなります。つまり、死亡事故が全国で最も多く発生する要素、要因が存在しています。
もちろん、死亡事故を減らすことは大事、ゼロを目指すために数値を目標として掲げることも必要であることは理解できます。しかし、「ワースト返上が悲願」という政治的な表現は、私には不快でした。
そして、令和の時代に入り、ワースト返上という課題は克服されてきました。では、その結果、何が変わったのか? それは誰に幸せをもたらしたのか? 亡くなられた犠牲者のご家族にとって、加害者とその家族にとっても、その1件がすべてであり、その年の発生件数などなんの意味も価値もありません。ワースト返上、それによって何が実現されたのでしょうか?
2019年秋、全国会議の席上で、私はこの課題について発言した。
「愛知県は、トヨタ自動車を抱える車の県です。ならば、交通事故防止活動においても、全国のリーダーとしての役割を果たすべきなのだと考えています。
これまで、愛知県では、官民挙げた交通事故防止に向けた取組みが行われてきました。その中には、他府県でも効果が期待できる施策・対策も存在します。しかし、誰も聞きに来ません。それは、愛知がワーストの県だからです。(以下、次号に続く)